労災保険編 社会保険でもらえる給付金と活用法
毎月楽しみな給料日。もらった瞬間はうれしいですが
給与明細を見てみると、税金や社会保険など色々なものが引かれてちょっと悲しい…。
「そもそもこの社会保険ってなんのために引かれているの?」
「きちんと支払っているけど、どんなときに役立つのかわからない」
そんな方も多いのではないでしょうか。
一般的に社会保険というと健康保険と厚生年金保険について指すことが多いですが
それ以外にも介護保険、雇用・労災保険などがあります。
今回はこの社会保険の種類の中でも労働保険の一つ労災保険について一般の方に当てはまる部分を説明していきたいと思います。
また、細かな制度・受給要件なども説明するとかなり長くなってしまうので、主要なものを除きある程度の特徴を抜粋して説明しています。
労災保険の保険料
労災保険は労働者の負担はなく給与からの差し引きは行われず、事業主の全額負担となります。
保険料の計算方法については雇用保険と同じく賃金総額に対して行われますが、
事業種によって保険率が大きく変わってきます。
例えば金融業、保険業又は不動産業の保険率は2.5/1000なのに対し
金属鉱業、非金属業(石炭石膏業又はドロマイト鉱業を除く)又は石炭鉱業は88/1000と高くなっています。
これは事業形態によって労働災害リスクが違うことを考慮して率が決定していることが理由です。
各事業ごとの保険率は下記のとおりです。
労災保険の支給額の計算に利用される給付基礎日額と算定基礎日額
労災保険の様々な制度には支給額を計算するための方法が出てきますが、
その際に利用されるものに給付基礎日額と算定基礎日額があります。
給付基礎日額
災害が発生した日の直前3ヶ月間に支払われた賃金総額を同期間の歴日数で割った額を算出します。これを給付基礎日額といいます。
賃金総額には賞与など3ヶ月以上ごとに支払われるものは含みません。
算定基礎日額
災害が発生した日の直前1年間に支払われた特別給与(3ヶ月以上ごとに支払われる賃金)の総額を算出します。これを算定基礎年額といいます。
そして算定基礎年額を365日で割り1日あたりの額を割り出します。これを算定基礎日額といいます。
労災保険の活用法
労災保険は労働者が通勤時、または業務中に怪我や病気になってしまった場合に支給されます。
また、仮に障害や死亡してしまった場合は障害補償給付や遺族補償給付など条件の範囲内で年金が支給されます。
それぞれの給付内容を見ていきましょう。
療養補償給付(療養給付)
療養補償給付は業務中に怪我や病気になってしまった場合にその治療にかかる費用を補償する制度です。
診察にかかる費用、薬代など治療にかかる費用、手術費用、介護費用、移送にかかる費用など全額支給されます。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は療養給付といい、療養補償給付と同じ保証を受けることができます。
傷病補償年金(傷病年金)
傷病補償年金は療養補償給付を受けている方で療養開始から1年6ヶ月経っても治らず障害を負ってしまった場合に受けられる補償です。
支給額は障害の程度(傷病等級)によって決定します。傷病補償年金と休業補償給付の併給は受けられません。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は傷病年金といい、傷病補償年金と同じ保証を受けることができます。
休業補償給付(休業給付)
休業補償給付は業務中に怪我や病気なり働けなくなった療養期間の賃金を補償する制度です。
補償額は給付基礎日額の80%が欠勤から4日目以降の休業日数分支払われます。
4日目以降とあるように欠勤から3日間の間は待機期間といい休業補償給付の支給は行われません。
しかしこの3日間の休業補償は労働基準法により事業主が行わなければなりません。3日間の休業補償の計算方法は1日につき給付基礎日額の60%となります。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は休業給付といい、休業補償給付と同じ保証を受けることができます。
障害補償年金(障害年金)
業務中に傷病を負ったあと、第1級から第7級の障害等級が残ってしまった場合に年金が支給される制度です。
年金額は給付基礎日額を基準に、障害の重さに合わせた支給日数を乗算し決定します。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気で障害を負ってしまった場合は障害年金といい、障害補償年金と同じ保証を受けることができます。
障害補償一時金(障害一時金)
業務中に傷病を負ったあと、第8級から第14級の障害等級が残ってしまった場合に一時金が支給される制度です。
一時金の額は給付基礎日額を基準に、障害の重さに合わせた支給日数を乗算し決定します。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は障害一時金といい、障害補償一時金と同じ保証を受けることができます。
遺族補償年金(遺族年金)
遺族補償年金は業務中の労災で亡くなった労働者の収入によって生活をしていた家族に年金が支給される制度です。
年金が受け取るには対象となる遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)が被災された方の死亡当時に下記の条件を満たしている必要があります。
支給を受けるのは下記の受給権者の中でもっとも順位の高い人のみとなっています。
①妻又は60歳以上か、一定の障害のある夫。
②18歳年度末までの間にある子(高校を卒業するまでの子)又は一定の障害のある子。
③60歳以上又は一定の障害のある父母。
④18歳年度末までの間にある孫(高校を卒業するまでの孫)又は一定の障害のある孫。
⑤60歳以上又は一定の障害のある祖父母。
⑥18歳年度末までの間にあるか、60歳以上又は一定の障害のある兄弟姉妹。
⑦55歳以上60歳未満の夫。
⑧55歳以上60歳未満の父母。
⑨55歳以上60歳未満の祖父母。
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹。
※上記①~⑩の対象者のうち最も上位の方が受給権者となります。
※上記での一定の障害とは障害等級第5級以上の身体障害のことを指します。
※⑦~⑩の対象者は受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されます。
受け取れる年金額は残された対象となる遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)の人数によって変わってきます。
対象者の年齢や状況によって変化しますが1名の場合は給付基礎日額の153日分からスタートし人数が増えるごとに日数が増えていきます。
詳細は下図を御覧ください。
表中にある遺族特別支給金は上記の遺族補償年金の受給権者条件に誰も当てはまらなかった際に一律で300万円支給されます。
また表中の遺族特別年金は遺族補償年金時に利用した日数と算定基礎日額を乗じて金額を割り出しますので注意してください。
業務中ではなく、通勤中に災害などで亡くなった場合は遺族年金といい、遺族補償年金と同じ保証を受けることができます。
遺族補償一時金(遺族一時金)
上記の遺族補償年金の受給権者条件に誰も当てはまらなかった際に支給されます。
被災者が死亡当時にすでに受給権者に当てはまる方がいなかった場合には算定基礎日額1000日分が支給され、
年金を受け取っている途中から受給権者対象者がいなくなってしまった場合には、今まで支給された合計額と算定基礎日額1000日分の差額が支給されます。
ここでは給付基礎日額ではなく算定基礎日額ですので注意してください。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は遺族一時金といい、遺族補償一時金と同じ保証を受けることができます。
葬祭料(葬祭給付)
葬祭料は業務中の労災で亡くなった労働者の葬儀を行う際、その葬祭を行った者に対し支給されます。
支給額は315,000円+(給付基礎日額×30日)の額と、給付基礎日額×60日の額どちらか多い金額が支給されます。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は葬祭給付といい、葬祭料と同じ保証を受けることができます。
介護補償給付(介護給付)
通勤中の災害によって一定の障害となり介護を受けている場合に支給されます。
支給対象条件は以下のとおりです。
①障害補償年金、傷病補償年金のいずれかの受給権者で、ある一定上の障害の状態にある方
②現に介護を受けていること
③病院または診療所に入院していないこと
④介護老人保健施設、障害者支援施設、特別養護老人ホーム、原子爆弾被爆者特別養護ホームに入所していないこと
ここでいう一定上の障害とは障害等級または傷病等級が1~2級の精神神経、胸腹部臓器に障害がある方です。
支給される金額は、障害の状況や介護する側の状況によっても異なります。
業務中ではなく、通勤中の怪我や病気になった場合は介護給付といい、介護補償給付と同じ保証を受けることができます。
二次健康診断等給付
会社で定期健康診断を受けた際に、異常が見られた場合は再検査などを行うかと思います。
この二次健康診断等給付では特定の部分に異常が見られた場合に二次健康診断や予防のための特定保健指導(年度内に1回)を無料で受けることが出来ます。
二次健康診断等給付の対象者
対象となるのは以下の条件を満たす方となります。
①血圧検査・血中脂質検査・血糖検査・腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定全てで異常の所見が見られた方
②労災保険に加入している方
③労災保険に特別加入していない方
④脳・心臓疾患を発症していない方(すでに医師から脳・心臓疾患の診断を受けた方は対象外)
③にある特別加入とは一般の労働者ではなく、事業者などが入る労災保険のことです。
対象者が受けられる二次健康診断
・空腹時血中脂質検査
・空腹時血糖値検査
・ヘモグロビンA1c検査(一次健康診断で行っていない方のみ)
・負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
・頸部超音波検査(頸部エコー検査)
・微量アルブミン尿検査(一次健康診断の尿蛋白検査で、疑陽性(±)または弱陽性(+)の所見が認められた場合のみ)
対象者が受けられる特定保健指導
栄養指導…管理栄養士等から体の状況に応じて食に関する相談や食事療法の指導を受けることが出来ます。
運動指導…健康運動指導士等から個人の身体状況などを考慮し安全で効果的な運動プログラムの作成や実践指導計画の調整等を行ってくれます。
生活指導…対象者の勤務形態や生活習慣についての状況把握を行い、健康的な生活になるよう指導・教育を行います。
以上が労災保険の活用法になります。
労働者側には一切の負担がないにもかかわらず、色々な活用法が存在しています。
ただし、注意点として基本的に上記の給付は自分自身で申請などを行わないと支給されないものなので
申請を忘れてしまっていたり存在自体を知らなかった場合、最悪支給を受けられず損をしてしまいます。
数がかなりあるので全てを覚えるのは難しいですが、お仕事をする上で困ったときは何か対象となる制度が無いか
調べる癖をつけておきましょう。